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栄養療法への気付き

栄養療法への気付き

事は私が勤務医をしていた頃の話になってしまいますが、「はじめに」で紹介したように、脂肪酸の件で、ドッグフードへの不信感を抱いた私は、しだいにフード全般の栄養配合に対して無条件に信頼を置くことは出来なくなりました。

その当時、泌尿器系の疾患ではストラバイト結石が注目を集めていました。

ストラバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム結晶)は、ウレアーゼ産生菌が発するウレアーゼという酵素が、尿素をアンモニアに変換し、過剰になったアンモニアが共存するリン酸とマグネシウムを捕えて結晶化することに起因する症状で、食事中のマグネシウム量は原因とはならないのですが、今でも続く低マグネシウム神話は、この頃に発生したものでした。

 

 

つまり、尿結石症予防に気遣った、低マグネシウムフードは良いフード、それをしないフードは粗悪品というイメージです。

何の意味もない、低マグネシウム食が、一般食としても広がりを見せ、それがのちに、ある問題を発生させてしまいます。

 

その頃、私はというと、神経学に注力しており、特にてんかん、中でも特発性てんかんについての探求をしておりました。

特発性てんかんは、主に5歳までの幼犬、成犬に発生が見られ、終生において、抗てんかん薬を飲み続ける必要があり、抗てんかん薬の副作用で長生きできないと考えられていました。

しかも、抗てんかん薬でうまく症状をコントロールできない症例も多く存在し、臨床獣医師の苦悩はなかなかのものでした。

今ではゾニサミドという良い薬が登場してその苦悩は随分と軽減されましたが、そのゾニサミドの注意書きにも、多くの副作用が記載されるようになり、決して無害な薬剤ではないことが分かってきています。

 

さて事はさかのぼって、そのゾニサミドが登場するよりもずっと前の話になります。

 

ある時、てんかんの重積発作が持続し、緊急で診てくださった先生の手にも負えずに私が見せて頂いた症例がありました。

てんかんの重積発作で行うべき検査、処置も済まされていたのですが、症状の改善が思わしくない状況でした。

残された方法として、私が選択したのは、マグネシウム剤で痙攣を止めるという方法でした。

 

じつは、ヒトでは低マグネシウムでテタニーという発作が起こることが知られており、ヒト以外では、マウスと、牛と馬でこれが起こることが分かっています。

 

犬では低マグネシウムでテタニー(痙攣)が起こるかどうかは分かっておらず、有るとも無いともいえません。

しかしこの時は、顕著に効果が現れ、15分と立たない間に痙攣は解消されました。

その後、この症例は状態が安定し、程なくして退院しました。

そして生涯にわたって継続してマグネシウムを与え続け、良好な生活を続けることが出来ました。

しかも、尿結石症を起こすことは全くありませんでした。

 

この症例以降、私が診させていただいている、てんかんの症例では、例外なく初期治療においてマグネシウム剤を含む、栄養療法を行っています。

このような数々の症例を見せて頂いた経験から分かってきたことは、特発性てんかんの症例の約40%では、栄養療法だけで症状の改善が見られるという事、中にはフードから離脱して、マグネシウムを補充する栄養療法だけを続けてそのまま再発も無く元気に過ごした症例が数多くいる事、効果を現す栄養療法はマグネシウムだけに限らないという事でした。

 

 

つまり、低マグネシウムを標榜するフードを離脱して手作り食を与えると、てんかん発作の発生は半減するという事です。

実はこの件に関して私はあるセミナーでフードのメーカーさんに次のような質問をしたことがあります。

「尿石症をケアーするフードは、マグネシウムの量がかなり少ないのですが、他の動物で見られるようなけいれん発作のリスクはないのでしょうか?」

その時のメーカーさんのお答えはこうでした。

「AAFCO基準を満たしていますから、問題ないと思います。」

しかし現実には、集計の結果はそうではありませんでした。

 

これが先に述べた、「ある問題」です。

それは、フードはたとえAAFCO基準を満たしていようとも関係なくそれに起因して病気が起こる可能性があるという事です。

 

このような症例を重ねるにつれて、私はフードが原因と考えられる病気の存在に気付くことになります。